副腎腫瘍治療ユニット

副腎腫瘍(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、副腎がんなど)の適切な診断・治療には、診療科の垣根を越えた総合的な医療が必須です。本ユニットは集約的に副腎腫瘍治療を行い、これまで以上に質の向上及び効率化を図るために設立されました。糖尿病・内分泌・代謝内科(初期診断、内科的治療)、放射線科(画像診断、副腎静脈サンプリング)、泌尿器科(外科的治療)、病理部(最終的な組織診断)で構成され、スムーズかつ密接に連携しています。患者さんひとりひとりに対して、カンファランスで情報を共有し、総合的に最も適切な診断、治療戦略を検討しております。

泌尿器科診療科長 ご挨拶

副腎腫瘍は、ホルモンを産生するもの、しないものに分類され、多くは良性ですが一部悪性もあります。ホルモンを産生する腫瘍も、原発性アルドステロン症、クッシング症候群(サブクリニカル症候群)、褐色細胞種など複数あります。

そして、無治療でよいものもあれば、薬剤治療あるいは手術が必要なものもあります。私たち東京科学大学病院の「副腎ユニット」は、糖尿病・内分泌・ 代謝内科、放射線診断科、泌尿器科など複数科で連携を密にして、最適な副腎腫瘍の診療(診断および治療)を目指しています。

泌尿器科は主に外科手術を担当しますが、基本的に患者さんの負担の小さい低侵襲手術(腹腔鏡手術、ミニマム創内視鏡下手術)を行ってきました。新たにロボット支援手術も開始し、患者さんの幅広いニーズに応える体制を作っています。副腎ユニットは、患者さんの不安や疑問に真摯に向き合い、最適な治療を提案して いきます。お気軽にお問い合わせください。 

藤井靖久(泌尿器科診療科長,大学病院長)

糖尿病・内分泌・代謝内科診療科長 ご挨拶

「副腎腫瘍」は多くの患者さんにとっては聞きなじみのない病名で、診断されたときに困惑されるかもしれません。副腎腫瘍が発見されるきっかけは様々で、無症状であっても他疾患の画像検査で偶然みつかることもあれば、重度の高血圧をきっかけにみつかることもあります。患者さんによって適切な診断・治療は異なりますが、当院ではこれまでに多くの副腎腫瘍の患者さんの診療を行い、豊富な知識・経験を蓄積してきました。

当院の副腎ユニットにおいて、糖尿病・内分泌・代謝内科は内科の立場から重症度を含めた診断、治療方法、経過観察の必要性などを慎重に判断して参ります。泌尿器科、放射線診断科の先生方と密に意見交換を行い、患者さんの健康を第一に考えた最適な診療を目指します。ぜひ、お気軽にご相談ください。

山田哲也(糖尿病・内分泌・代謝内科診療科長)

セカンドオピニオン

現在診療を受けている医療機関とは別に診断や治療選択についてご相談がある場合は、セカンドオピニオンを承ります。副腎腫瘍の診療は診断、手術、術前のホルモンコントロールなど多岐にわたる要素があり、それぞれについて適切な診療が行われることが重要です。内科的治療、外科的治療の両方についてそれぞれの専門家がご対応いたしますのでお気軽にご相談ください。

お問い合わせ先
東京科学大学病院病院 医療連携支援センター
医科セカンドオピニオン外来(糖尿病・内分泌・代謝内科または泌尿器科)
電話:03-5803-4568 (平日9:00〜16:00)
ホームページ:東京科学大学 医科セカンドオピニオン外来

副腎腫瘍の診断・検査

若年発症の高血圧や、降圧剤を沢山内服しても血圧がなかなか下がらないという患者さんでは、副腎腫瘍が原因となっていることがあります。CT, MRIによる画像検査で副腎腫瘍の大きさ、性状を評価できます。
副腎からのホルモン分泌を評価するために、採血や蓄尿検査を行います。分泌されるホルモンの種類によっては入院下で詳細な検査を行います。診断が進むと、放射性物質を使用したシンチグラフィー検査や、カテーテル検査を行い、ホルモン分泌のある腫瘍の位置を診断して外科的治療の適応があるか判断を行う場合があります。

画像診断

各種の副腎疾患では副腎腫瘍や過形成などの形態異常を伴うことがあるため各種の画像診断を行っていただく場合があります。また全身疾患との関連が疑われる場合や悪性疾患の可能性がある場合には全身の画像診断を行う必要があります。

CT検査

X線を使用して体内の断層像を撮影する検査であり、当院では最新式のdual source CTが導入されています。CT検査では大きさが数ミリ程度の副腎腫瘍を検出することが可能です。腫瘍の血流の多さや微細な血管構造を把握する必要がある場合にはヨード造影剤を腕の静脈から投与しながら撮影を行います。また全身を短時間で撮影することができるので、悪性疾患の可能性がある場合には全身検索のため撮影を行います。ヨード造影剤やX線は健康に悪影響がでないように適切に使用するよう必要があるので、検査の必要性と患者さんの状態を十分に検討しながら撮影を行います。

MRI検査

強い磁場を利用して体内の断層像を撮影する検査であり、当院では最新式の高磁場(3T)MRI機器が導入されています。MRIは病変の内部性状の診断に優れており、副腎腫瘍に含まれる微量の脂肪成分や出血の有無を検出することができます。またクッシング症候群の診断においては脳下垂体の腫瘍の有無を診断するために使用されます。(強い磁場を利用した検査であるために以前の手術などで体内に金属製の医療器具が埋め込みがされている場合には検査ができない場合がありますので、事前にお申し出ください。)

核医学検査

放射線を一定期間放出する放射性同位元素を用いた検査です。副腎シンチグラフィーの場合には副腎ホルモンに類似した物質を放射性同位元素で標識した薬剤を投与し、その体内での分布を撮影することにより、病変の機能を評価することができます。また当院ではFDG-PET撮影機器が設置されており、細胞の糖代謝を指標とした悪性疾患のスクリーニングを行うことができます。副作用の少ない検査ですが、検査前の絶食や検査実施時間の厳密な設定が必要な検査です。

副腎静脈サンプリング

原発性アルドステロン症において、手術適応を決定するためには両側にある副腎のどちらからホルモンの過剰分泌があるか確認する必要があります。そのため血管カテーテルを使用して副腎静脈から直接採血を行う副腎静脈サンプリングが必要となります。副腎静脈は非常に細いため正確な採血結果を得るためには熟練した技術が必要ですが、当院では97%以上の成功率(2019-2023年)で行っております。この検査は放射線診断科と糖尿病・内分泌・代謝内科が協力して行っており、検査前の準備や検査後の安静のため入院が必要です。

内科的治療

副腎腫瘍から過剰なホルモン分泌がある場合、ホルモンの影響を抑えるために内科的治療を行うことがあります。クッシング症候群におけるコルチゾール過剰を抑えるために、メチラポン(メトピロン®)、オシロドロスタット(イスツリサ®)が使用されます。原発性アルドステロン症に対しては、過剰なアルドステロンの影響から体を守るために、エプレレノン(セララ®)、エサキセレノン(ミネブロ®)などを使用します。副腎からのホルモン過剰は高血圧、糖尿病といった合併症を引き起こすため、降圧剤、経口血糖降下薬の調整やインスリンなどの注射製剤が必要になることがあります。

代表的な疾患について

原発性アルドステロン症

副腎からのアルドステロンが過剰に分泌され、重症高血圧や低カリウム血症を引き起こす疾患です。高血圧患者さんの約10%に潜んでいる可能性があります。副腎腫瘍が原因でアルドステロンが過剰分泌されている場合においては、外科的治療による症状の改善が期待できます。手術適応がない場合でも、アルドステロンの影響から体を守る治療薬を選択することが望ましく、早期の診断・治療が重要です。

クッシング症候群

副腎からのコルチゾールが過剰に分泌され、中心性肥満(四肢は痩せ、腹部には脂肪がつく)、満月様顔貌(顔が丸くなる)、野牛肩(背中の上部に脂肪がつく)、皮膚の菲薄化、赤色皮膚線条といった特有の症状を呈する疾患です。この他、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、月経異常、うつ症状などの原因になります。副腎腫瘍が原因になることも多く、外科的治療が優先されます。サブクリニカルクッシング症候群といって、コルチゾールの過剰分泌はあるのに身体症状が現れていない場合もありますので、副腎腫瘍がある場合には専門施設でのホルモン検査を受けることが重要です。

褐色細胞腫・パラガングリオーマ

褐色細胞腫は副腎髄質から発生する腫瘍です。まれに副腎の外(頸部・胸部・膀胱付近などの傍神経節)に発生することもあり、これらはパラガングリオーマと呼ばれます。アドレナリンやノルアドレナリンといったカテコールアミン分泌を特徴とし、高血圧や頭痛、動悸、発汗、不安感、便秘など多様な症状が出現します。腫瘍にストレスが加わると、大量のカテコールアミンが放出され、急速かつ極端な血圧の上昇が起きて生命に関わる緊急事態(高血圧クリーゼ)になることがあります。そのため、褐色細胞腫が診断された場合は原則的に手術が勧められます。また、手術後も長い期間を空けて再発、転移をする場合があるので、長期間に渡る経過観察が必要となります。

副腎皮質がん

副腎皮質から発生する腫瘍は多くが良性ですが、稀に悪性(副腎皮質がん)の場合があります。画像所見、ホルモン検査から慎重に診断を行い、副腎皮質がんが疑われる場合には速やかな治療が必要です。手術による摘出が望ましいですが、コルチゾールをはじめとしたホルモン過剰分泌を伴うことがあり、そのような場合では内科的治療も必要になります。高確率で転移するため化学療法や放射線療法を行うことがあります。

副腎腫瘍の外科的治療

副腎腫瘍のうち、手術の適応となるものとして、過剰なホルモン分泌がある副腎腫瘍(原発性アルドステロン症、クッシング症候群・サブクリニカルクッシング症候群、褐色細胞腫)、悪性が疑われる副腎腫瘍(腫瘍径が大きい場合など)が挙げられ、その治療として副腎摘除が行われます。

本邦のガイドラインでは、腹腔鏡手術が良性副腎腫瘍に対して第一選択の術式として推奨されています。腹腔鏡下副腎摘除は1992年に本邦において世界で初めて施行され、その後、低侵襲手術として世界へと拡大、1996年には本邦で保険収載され、副腎腫瘍に対する標準術式となっています。

一方で、ロボット支援腹腔鏡下副腎摘除は欧米において1999年頃より報告されており、本邦では2022年4月に保険収載され、その有用性が示されています。ロボット支援手術は、腹腔鏡手術を手術支援用ロボットを用いて行うもので、これまでの腹腔鏡手術の利点をさらに向上させることができると考えられています。その特長として、手ぶれ防止機能があり、鉗子先端の可動域は広く、3D内視鏡映像による立体感のある視野にて手術を行うことができます。このため、ロボット支援手術では、従来の腹腔鏡手術よりも、繊細かつ丁寧な、そして確実な手術操作が可能となります。具体的には、ロボット支援腹腔鏡下副腎摘除は、現在の標準術式である腹腔鏡下副腎摘除と比較をしても、出血量が少ない、術後合併症が少ない、在院日数が短いといった点でさらに優れていると報告されています。

当院においては、副腎腫瘍に対してはロボット支援腹腔鏡下副腎摘除、腹腔鏡下副腎摘除、ミニマム創内視鏡下副腎摘除を低侵襲手術として行っており、患者さんによって適した術式を選択しています。