診療のご案内

副腎腫瘍治療ユニット

ガスレス・シングルポート・ロボサージャン手術(通称)

Gasless Single-port RoboSurgeon Surgery=最先端型ミニマム創内視鏡下手術

副腎腫瘍治療ユニット

副腎腫瘍(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、副腎癌他)の適切な診断・治療

副腎腫瘍(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、副腎癌他)の適切な診断・治療には、内分泌内科(診断)、放射線科(画像診断、副腎静脈サンプリング)、泌尿器科(手術治療:ミニマム創内視鏡下副腎摘除)、病理(最終的な組織診断)の密接な連携が必須です。患者さんひとりひとりに対して、カンファランスで情報を共有し、合同で最も適切な診断、治療戦略を検討しております。現在、200名の患者さんを本ユニットで診断・治療しました。

副腎の腫瘍には、腫瘍はあるが過剰にホルモンを分泌しない非機能性腫瘍と、腫瘍からホルモンを過剰分泌する機能性腫瘍があります。前者の多くは、検診や他疾患の精査中に偶然発見されるものがほとんどです。後者は、高血圧や糖尿病を主症状として内科を受診し、その検査の過程で判明します。発見の契機に関係なく、精密検査が必要と判断された場合には、内分泌内科に紹介され、必要に応じて入院、精査します。機能性腫瘍のなかで最も多い原発性アルドステロン症は、腫瘍自体が小さく、CT検査に加えて放射線科の協力を得て、血管造影をしながら左右の副腎静脈からアルドステロンをサンプリングして、存在部位の診断をつけます。次に、患者さん、泌尿器科、内分泌内科の3者で手術治療の相談となります。機能性腫瘍に対する術前のホルモンコントロールを内分泌内科で行い、入院後は泌尿器科、内分泌内科合同で管理します。手術は、全例ミニマム創内視鏡下手術で行います。術後の経過観察も、両科合同で行います。 情報を共有しつつ、手術と全身管理にそれぞれに特化することで、高い水準を達成していると考えております。さらに、摘出腫瘍に関するカンファランスを毎週病理医と行っており、疾患に対する理解を深めております。

現在、高血圧の原因として、原発性アルドステロン症の頻度が高いことがわかってきており、本ユニットの最重要疾患と位置付けております。

原発性アルドステロン症

高血圧症の多くは、「本態性高血圧症」と呼ばれる原因不明の高血圧症ですが、高血圧症の約2割はその原因が明らかとなっている「2次性高血圧症」で、そのなかで、副腎からアルドステロンという血圧を上げるホルモンが過剰に分泌されることにより生じる高血圧症が、「原発性アルドステロン症」です。近年、診断技術の向上により、高血圧患者の約5-15%が「原発性アルドステロン症」であることがわかってきました。本邦では、本態性高血圧患者が約3,500万人存在するといわれているので、100万人以上の原発性アルドステロン症患者の存在が推測されています。

しかも、 本症では、高血圧は重症となることが多く、アルドステロンの作用により、心肥大・不整脈・腎機能低下・脳出血・脳梗塞などの、全身の動脈硬化に由来する合併症が生じやすくなります。これらの重篤な合併症を生じる前に、高血圧症の診断時、または治療中に、「原発性アルドステロン症」の可能性に関して適切に検査を行い、診断、治療することが大変重要となります。潜在患者が多数存在することが推測されており、患者さんのみならず、高血圧を治療する医師の本疾患に対する認識を高めることが重要と思われます。

重症の高血圧、50歳前から降圧剤の内服が開始となった方や、何種類もの降圧剤を服用しても血圧がなかなか下がらない方は内科の主治医に相談して一度副腎を調べて貰うとよいと思われます。CT検査で、明らかな副腎腺腫がなくても、画像ではわからないアルドステロンの微小腺腫は否定できませんので、我々のユニットでの積極的な精査が有用と思われます。

アルドステロン産生腫瘍の診断が確定後は、泌尿器科でミニマム創内視鏡下副腎摘除にて治療します。本手術は、炭酸ガスを用いず、原則として側腹部(第12肋骨先端)に2-4cmの単一切開創(シングルポート)を設定して、内視鏡下に副腎を摘出します。皮膚は、真皮埋没縫合で閉じますので、抜糸も不必要で、コスメテックにも優れています。通常翌日から食事や歩行ができ、数日以内に退院が可能です。後腹膜的に行いますので、腹部手術の既往のある患者さんでも適応となります。

術後は、高血圧症の大幅な改善、血圧を下げる薬(降圧薬)の減量または中止が可能となります。高血圧症が完治することもありますが、高血圧の期間の長い患者さんでは手術後も長期間の降圧剤が必要な場合があります。術後の降圧剤の管理は、内分泌内科で行います。

クッシング症候群

副腎からのコルチゾールというホルモンの慢性過剰により引き起こされる病態です。原発性アルドステロン症の次に多い疾患で、最終的な治療は泌尿器科でミニマム創内視鏡下副腎摘除を行います。手術以上に、術前後のホルモン管理、特に術後のステロイドの補充療法とその中止のタイミングが、きわめて重要です。内分泌内科による徹底した管理が行われます。ユニットの真価が最も発揮される疾患の一つです。

褐色細胞腫

副腎腫瘍のなかでは、手術、術前、術後管理で、もっとも熟練を要する疾患です。まずは内分泌内科で、徹底した血圧管理を行います。手術は、ミニマム創で行っております。

術前は高血圧発作、高血糖が問題ですが、術後は逆に急激な血圧低下、低血糖などが問題となります。術後管理は、泌尿器科、麻酔科、内分泌内科であたり、経験を踏まえた充分な対処を行っております。褐色細胞腫は、破裂などもあり、緊急疾患としての側面もあり、合同の勉強会を行っております。また、時に悪性例もあるため、経過観察が重要であり、内分泌内科を中心としたフォローアップ体制もしっかりひいております。

副腎癌

稀な疾患でありますが、手術療法が最も重要で、周囲臓器の合併切除も念頭にいれた拡大切除が重要です。再発例に対して、確立された有効な治療はありません。通常の放射線、化学療法の効果はそれぞれ単独では認められませんが、我々は放射線化学療法と手術などを組み合わせた集学的治療も積極的に行っております。泌尿器科と肝・胆・膵外科の綿密な協力のもと、手術を検討しております。

最後に

副腎腫瘍の治療は、総合力です。一人の名人がいても、ほとんど何もできません。ミニマム創手術も治療の1パートであり、ユニットとして機能して初めて、患者さんに安心して治療をうけて頂くことができます。非常にスムーズかつ密接な連携のもと治療が行われており、我々として誇れるユニットになっております。病院とのアクセスは、内科、泌尿器科などどこの窓口からはいることになっても、同じシステムにのりますので、ご心配いりません。

文献

当教室の業績

  1. Antimicrobial prophylaxis is not necessary in clean category minimally invasive surgery for renal and adrenal tumors: a prospective study of 373 consecutive patients. Kijima T, Masuda H, Yoshida S, Tatokoro M, Yokoyama M, Numao N, Saito K, Koga F, Fujii Y, Kihara K. Urology. 80: 570-5, 2012.

  2. Gasless single-port access endoscopic surgery in urology: minimum incision endoscopic surgery, MIES. Kihara K, Kawakami S, Fujii Y, Masuda H, Koga F. Int J Urol. 16: 791-800, 2009.

  3. Absence of prophylactic antibiotics in minimum incision endoscopic urological surgery (MEUS) of adrenal and renal tumors. Yoshida S, Masuda H, Yokoyama M, Kobayashi T, Kawakami S, Kihara K. Int J Urol. 14: 384-7, 2007.

  4. Portless endoscopic adrenalectomy via a single minimal incision using a retroperitoneal approach: experience with initial 30 cases. Kageyama Y, Kihara K, Kobayashi T, Kawakami S, Fujii Y, Masuda H, Yano M, Hyochi N. Int J Urol. 11: 693-9, 2004.

  5. Successful long-term disease-free survival following multimodal treatments in a patient with a repeatedly recurrent refractory adrenal cortical carcinoma. Fujii Y, Kageyama Y, Kawakami S, Masuda H, Arisawa C, Akamatsu H, Akashi T, Kihara K. Int J Urol. 10: 445-8, 2003.