治療と検査開発

進行性腎がんに対する集学的治療

進行性(転移性)腎がんに対しては、薬物療法(免疫療法、分子標的治療)、外科的治療(原発巣摘除、転移巣摘除)、放射線治療を適切に組み合わせた集学的治療を行います。

当科では、根治切除が困難な腫瘍に対する術前補助薬物療法、局所進行癌に対する拡大手術、再発転移巣切除など、集学的治療を積極的に施行しております。より有効な治療法を選択するために、血清マーカーであるCRPを指標としています。

薬物療法

現在、腎がんに用いられている薬物療法には、サイトカイン療法、分子標的治療、免疫チェックポイント阻害剤があります。分子標的治療には、主に腫瘍の血管新生を阻害するチロシンキナーゼ阻害薬と、腫瘍細胞の増殖を抑制するmTOR阻害薬が含まれます。

サイトカイン療法

人体には、体内で発生したがん細胞を異物と認識として攻撃する、がん免疫機能が備わっています。サイトカイン療法とは、インターフェロンαまたはインターロイキン2により、免疫の働きを活性化することで、がんを抑制する治療法です。分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤が登場し、現在では使用の機会が大きく減少しています。

分子標的治療薬

分子標的治療薬は、腫瘍細胞の増殖や血管内皮細胞の増殖にかかわる細胞内シグナル伝達を阻害することによって腫瘍の増殖を抑える薬剤です。主に腫瘍の血管新生を阻害するチロシンキナーゼ阻害薬として、ソラフェニブ、スニチニブ 、アキシチニブ、パゾパニブ、さらに2020年に新たに保険適応となったカボザンチニブの5剤が現在使用可能です。また、腫瘍細胞の増殖を抑制するmTOR阻害剤として、エベロリムス、テムシロリムスの2剤が使用されています。どの薬剤を用いるかは、腫瘍の組織型、前治療の内容、全身状態、併存合併症などに基づいて選択します。アキシチニブは、次に紹介する免疫チェックポイント阻害剤との併用療法でも用いられます。

免疫チェックポイント阻害剤

免疫チェックポイント阻害剤とは、がんが免疫を逃れて生き延びようとする仕組みをブロックして、人体が本来持っているがん免疫の作用を高め、がんの進行を抑える治療です。現在、ニボルマブ、イピリムマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブの4剤が腎がんに対して使用可能です。

がん細胞の表面にはPD-L1という分子があり、これがT細胞(免疫細胞)の表面にあるPD-1と結合することで、T細胞のがん細胞に対する攻撃にブレーキがかかります。また、T細胞の表面にはCTLA-4という分子があり、これが抗原提示細胞のCD80/CD86と結合すると、がん細胞に対する攻撃力が弱まります。ここで、ニボルマブとペムブロリズマブはPD-1、イピリムマブはCTLA-4、アベルマブはPD-L1とそれぞれ結合し、その作用を妨げることで、がんに対する免疫を高めるように働きます。現在、進行性(転移性)腎がんに対する一次治療としてイピリムマブ+ニボルマブ併用療法、ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用療法、あるいはアベルマブ+アキシチニブ併用療法が、分子標的治療に抵抗性となった後の二次治療としてニボルマブが用いられます。これらの薬剤によって、一部の患者さんでは、長期間の寛解が得られることが知られております。

なお、この薬剤は全身の免疫機能を活性化させるため、正常細胞に対する免疫反応も過剰となり、自己免疫疾患のような副作用をきたすことがあります。このような免疫チェックポイント阻害剤に特有の副作用は、全身の臓器に起こる可能性があり、かつ重篤になることがあります。治療開始前に、薬剤師からこれらの副作用についてご説明しますので、起こりうる症状についてよくご理解いただき、何らかの症状があれば、すぐに病院へ連絡してください。

手術療法

診断時に転移を認めていても、全身状態が良好で手術が可能であれば腎臓(原発巣)は摘除することが推奨されています。原発巣摘除により、出血や痛み、発熱などの症状を防ぐことができるだけでなく、生存期間の延長が期待されます1

腎がんは、進行すると静脈内に腫瘍が進展(腫瘍塞栓と呼びます)することがあり、下大静脈や心臓まで達する場合もあります。このような場合でも、腫瘍塞栓を含めて完全に切除することにより生存期間の延長が期待されるため、全身状態が良好であれば手術を検討します。腫瘍塞栓の広がりによって人工心肺装置の使用が必要となることがあります。手術範囲が広範となるため、各専門外科と協力して手術を行っています。

転移巣に対しても、転移巣切除による生存期間の延長が期待されるため、転移巣の数が少なく、完全切除が可能であれば手術を行います。各専門外科と連携して手術適応を検討します。

放射線治療

腎がんは放射線治療の効果が低いため、腎臓(原発巣)の治療目的に、放射線治療が用いられることは通常ありません。しかしながら、症状を抑える目的では有効であり、転移巣の治療、特に骨転移と脳転移の治療において、放射線治療が用いられます。

骨転移への放射線治療により、疼痛の改善、病的骨折の予防が期待されます。さらに、骨転移治療薬(骨修飾薬)との併用により、放射線治療の抗腫瘍効果が増強され、病的骨折の予防だけでなく、生存期間の延長をもたらす可能性も示唆されており、当科では、骨転移巣に対する積極的治療を行っております2-4

脳転移に対しては、主に定位放射線治療(ガンマナイフなど)が用いられ、神経症状の改善、進行の抑制に有効です。定位放射線治療は当院では施行していないため、他院へ紹介することになります。

業績

当教室の業績

  1. Pre-operative risk stratification for cancer-specific survival in patients with renal cell carcinoma with venous involvement who underwent nephrectomy. Nakayama T et al. Jpn J Clin Oncol. 44: 756-61. 2014

  2. Radiotherapy to bone metastases from renal cell carcinoma with or without zoledronate. Kijima T et al. BJU Int. 103: 620-4. 2009

  3. Zoledronic acid sensitizes renal cell carcinoma cells to radiation by downregulating STAT1. Kijima T et al. PLoS One. 8: e64615. 2013

  4. Possible improvement of survival with use of zoledronic acid in patients with bone metastases from renal cell carcinoma. Yasuda Y et al. Int J Clin Oncol. 18: 877-83. 2013