先進的な診療

根治的膀胱温存療法(膀胱がん)

筋層浸潤膀胱がんの根治と機能的膀胱温存の両立

筋層浸潤膀胱がんに対する標準的根治療法は、膀胱全摘除です。世界中で広く施行されている確立した治療法ですが、同時に、膀胱に代わる尿の排泄経路を作成する尿路変向(回腸導管造設、自排尿型新膀胱造設など)が必要となり、手術後長期にわたる生活の質(Quality of life: QoL)の低下が問題となります。回腸導管造設後は、生涯にわたり、ストーマからの排尿管理のための装具を用いることとなります。新膀胱造設後には、自身の尿道から排尿することが可能である一方、排尿の困難や、夜間の失禁などに悩まされることが少なくありません。また、いずれにおいても、通常性機能は大きく損なわれます。さらに、膀胱全摘除は、身体への侵襲が比較的大きな手術であり、特にご高齢の患者さんでは、合併症のリスクの観点から、手術をお勧めできない場合もあります。

このような背景の中、膀胱を摘出せずに筋層浸潤膀胱がんを治療する膀胱温存療法の試みが、複数の施設でなされてきました。近年、経尿道的膀胱腫瘍切除と化学放射線療法(抗がん剤を併用した放射線療法)を組み合わせた膀胱温存療法の有用性が数多く報告され、最新の米国のガイドラインでは、膀胱全摘除と並んで、筋層浸潤膀胱がんに対する治療の選択肢として記載されています。当科では、1990年代より世界に先駆けて、筋層浸潤膀胱がんの根治と機能的膀胱温存の両立を目指し、膀胱温存療法の開発に取り組んできました。根治性を損なわずに膀胱温存が可能と考えられる、腫瘍の範囲が比較的限局した筋層浸潤膀胱がんの患者さんを対象として、独自のプロトコルを開発、実践し、その有用性を報告しています。

当科の膀胱温存プロトコルでは、対象となる患者さんを以下の通り定めています。

  • 筋層浸潤膀胱がんであること
  • がんが単発かつ範囲が広範でないこと(膀胱全体の25%以内)
  • 膀胱頚部(膀胱の出口)にがんが及んでいないこと
  • 上皮内がん(粘膜を這うタイプのがん)がないこと

以上に該当する患者さんに対して、当科独自の膀胱温存プロトコルを用い、治療を行なっています。多くの施設で施行されている膀胱温存療法は、経尿道的膀胱腫瘍切除(①)、抗がん剤投与(②)、放射線療法(③)の3者を併用するもので、「トリモダリティ」と称されます。しかしながら、元々がんがあった部位に、一定の頻度で浸潤がんが再発することが、この治療法の大きな問題点でした。これを克服すべく、当科では、治療の仕上げとして、病変部(がんがあった部位)を切除する手術(膀胱部分切除:④)を追加する4者併用(テトラモダリティ)の治療を行っています。それぞれのステップについて、以下で説明します(図参照)。

経尿道的膀胱腫瘍切除(①)

尿道から挿入した膀胱鏡観察下に、膀胱の内側からがんを切除する手術です。はじめに十分な経尿道的膀胱腫瘍切除を行うことで、可能な限りがんを減量します。また、正確ながんの深さの診断も、本手術の目的の一つです。

低用量化学放射線療法(②、③)

経尿道的に可能な限りがんを切除した後、抗がん剤投与(②)と放射線療法(③)を併用する化学放射線療法を施行します。低用量の抗がん剤(シスプラチン)を、放射線療法の治療効果を増感する目的で使用します。放射線療法の照射線量も低用量(40Gy/20回)とし、その後の仕上げの治療として、次に述べる膀胱部分切除を追加することで、放射線療法による副作用のリスクを低減し、かつ高い根治率を得ることを目指しています。

膀胱部分切除(④)

化学放射線療法を施行した後、検査(治療効果判定)にて良好な治療効果が確認された患者さんに対して、最終的に膀胱部分切除(病変部の膀胱切除)を施行しています。これによって、同部での浸潤がん再発を、極めて低い頻度に抑えることに成功しています。また、手術で切除した組織を、病理学的に詳しく検査することで、化学放射線療法の治療効果をより正確に判定できることも利点の一つです。膀胱部分切除はミニマム創内視鏡下手術で行い、さらに、3D内視鏡と3Dヘッドマウントディスプレイを用いたロボサージャンシステムの活用、膀胱の内側から膀胱鏡観察下に切除ラインを設定すべく経尿道的操作を併用するハイブリッド手術の開発と、より低侵襲で精緻な手術を目指し、術式の洗練を進めています。

化学放射線療法の治療効果が不十分であった患者さんに対しては、原則とし、その時点で膀胱全摘除をお勧めしています。

2017年7月現在、当科では、約160人の患者さんに対して、上記のプロトコルに基づく膀胱温存療法を行なっています。化学放射線療法が奏効し、最終的に膀胱温存の基準を満たす患者さんが全体の83%、膀胱部分切除術を施行した患者さんの5年浸潤がん非再発生存率は97%、5年癌特異的生存率は93%と、筋層浸潤がんとしてはきわめて良好な治療成績を得ています。排尿及び蓄尿機能の評価では、ほとんどの患者さんで、十分な機能的膀胱が温存されていること、手術後のQoL調査では、同年代の非がん患者さんとほぼ同等のQoLが維持されていることが確認されました。また、75歳以上の比較的ご高齢の患者さんにおいても、より若年の患者さんと比較して、上記の治療成績は遜色ないことを報告しています。