先進的な医療

ミニマム創内視鏡下無阻血腎部分切除

腎がんに対する腎血流を保った低侵襲・腎部分切除:
最新デバイスを用いた腎血流非遮断・ミニマム創内視鏡下腎部分切除

腎癌に対する腎血流を保った低侵襲・腎部分切除:最新デバイスを用いた腎血流非遮断・ミニマム創内視鏡下腎部分切除

当教室では、患者さんの体の負担(侵襲)を最小限にする腎部分切除の術式の開発を行ってきました1。当教室の開発したミニマム創内視鏡下腎部分切除は、皮膚切開がミニマムなだけではなく、腎血流を遮断しないで行うため、術後の腎機能保持に有利です。特に腎臓が片方しかない患者さんや、腎機能が悪い患者さんに適した体に優しい手術と言えます。現在、ミニマム創内視鏡下腎部分切除は、3D 内視鏡+ヘッドマウントモニターシステムを取り入れて精緻な手術操作を行っています。

ミニマム創 内視鏡下腎部分切除の対象患者さん

A.4cm以下の腫瘍
または
B.(腫瘍の大きさにかかわらず)腎臓の外側に位置している腫瘍

腫瘍が4cm未満であれば、腫瘍の位置に関わらず、ほとんどが手術適応になります。また4cm以上の腫瘍でも腎臓の外側に位置しているなど、腫瘍の位置によっては本手術の適応になります。

はじめに: 小さな腎腫瘍の増加

近年、超音波検査やCT検査などの画像診断の普及に伴い、健康診断や他の病気の検査中に、小さな腎腫瘍が偶然見つかるケースが増加しています2。これらの腎腫瘍は、悪性(腎がん)と良性腫瘍の両者があり、多くの場合は画像診断で良悪性の区別がつきます2。画像診断で悪性(腎がん)と診断された場合、手術が標準的治療になります。ただし小さな腫瘍では、悪性と良性の区別がつきにくい場合もあり、当教室では、より正確な診断のために鑑別診断モデルを開発し、治療方針の決定に活用しています。悪性が否定できなければ通常は腎がんに準じて治療を行いますが、患者さんの希望により腎腫瘤生検を行い診断を確定することもあります。

腎機能障害(慢性腎臓病:CKD)の患者さんの増加:腎機能温存の意義

最近、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)という概念が注目されています。CKDとは、腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態で、放置した場合、腎不全となって人工透析や腎移植が必要になることもあります。現在、日本には多数のCKD患者さんがいると言われています。さらに、CKDでは、人工透析に至らなくても、心臓病や脳卒中などの心血管疾患にもなりやすいことが明らかになり、自覚症状のないうちに診断し適切な治療を行うことが大切です。腎がん治療の中心は手術であり、腎臓の片方あるいは一部を摘出するため、術後にある程度は腎機能が低下するリスクがあります。

したがってCKDの患者さんが腎腫瘍と診断された場合、治療に際して特に腎機能温存に留意する必要があります。私たちの開発したミニマム創内視鏡下腎部分切除は、後述するように腎機能温存に有利な手術です。

腎腫瘍に対する腎部分切除の意義

臨床的に腎がん(疑い含む)と診断された場合、従来は腎臓を周囲の脂肪組織ごと丸ごと全摘出する根治的腎摘除が標準的治療でした。しかしながら、近年、(4cm以下の)小さな腎腫瘍に対し、腫瘍の部分のみを摘出する腎部分切除は、根治性において根治的腎摘除と同等なことが示され、小径腎腫瘍に対する標準治療となっています。根治的腎摘除と比較して、腎部分切除は、健常腎実質が温存されるため、術後の腎機能を保つ上では根治的腎摘除より優れています3。私たちは,根治的腎摘除では術後CKDを高率に発症すること2、その場合心血管疾患にもなりやすいことを報告してきました4

また画像検査で腎がん(疑い含む)と診断され腎部分切除を行った場合、病理検査で実際は良性腫瘍と診断されることがあります。欧米の複数の施設からの報告では、腎部分切除症例での良性腫瘍の頻度は20-25%と比較的高いと報告されています。
一方、東京医科歯科大学とがん研有明病院の2施設の成績では、腎部分切除を行った患者さんでは良性腫瘍の頻度は11%と欧米よりも低い結果でした5。これは日本では精度の高い画像診断が行えること、またオンコサイトーマという良性腫瘍が日本人(アジア人)では欧米人よりも少ないためではないかと考えられます。腎部分切除の対象となるような比較的小さな腎腫瘍では、良性腫瘍は日本人では欧米人より少ないものの無視できない頻度であることがわかりました。

これらのことから、腎腫瘍に対しては、可能であれば腎部分切除を行うことがよいと考えられます。ただし、全ての腎腫瘍に腎部分切除が行えるものではなく、腫瘍の大きさと位置が重要な条件となります。径4cm以下の腫瘍は、ほとんどの腫瘍が腎部分切除の対象となります。4cm以上の腫瘍においては、腎臓の外側にあるなど、位置によって腎部分切除の対象となることがあります。

従来の腎部分切除の問題点

従来は、腎部分切除の多くは開腹手術で行われてきました。最近では、腹腔鏡手術やロボット支援手術など新たな低侵襲手術で腎部分切除を行う施設も増えてきています。

腎部分切除は、開腹手術でも腹腔鏡手術やロボット支援手術でも、腫瘍を切除する際、通常は出血をコントロールするため腎臓の血管を剥離し、腎血流を一時的に遮断して行います。血流を遮断し、腎が一時的に虚血状態になることで、腎機能低下が起こる可能性も指摘されています。腎血流遮断を短時間にとどめることや、腎を冷却することで、腎機能低下が回避できることも知られていますが、腎血流を遮断せずに腫瘍を切除することは、腎機能温存により有利である可能性があります。また、腎血流を遮断しないことで、腫瘍を切除した後の確実な止血が確認できるため、止血を目的とした腎実質縫合が不要です。その結果、腎実質縫合による有効腎実質量の低下、および仮性動脈瘤などの術後出血の合併症リスクが軽減される可能性があります。

ミニマム創 内視鏡下腎部分切除

ミニマム創内視鏡下腎部分切除は、上記のような腎部分切除の諸問題を解決するために当教室で開発した術式です。5cm程度の皮膚切開で手術を行い、術後の疼痛や皮膚のしびれが小さい手術です1,8-10体内に炭酸ガスを注入せず、腎血流を遮断せずに行います。必要に応じ、腎血流を遮断することもありますが、現在ではほぼ全例で、腎血流の遮断を行っていません。この結果、術後の腎機能が良好に保たれ6)、また既述したように、ほぼ全例で術後仮性動脈瘤の発生を認めません7

実際の手順ですが、まず腫瘍周囲の正常腎実質に電気メスなどを用いて、腫瘍の概形を形作るよう腫瘍周囲に溝を形成します(図2A)。さらに腫瘍の底部の切開を進めて、腫瘍を切除します。この際にソフト凝固デバイスなどを用いて、丹念に止血を行いながら腫瘍部分を摘出します。本術式は、手技的にも特別に困難なものではなく、安定した成績が得られています11
現在、ミニマム創内視鏡下腎部分切除は、3D 内視鏡+ヘッドマウントモニターシステムを取り入れて行っており、以前よりもさらに明瞭な視野で精緻な手術が行えるようになりました。

本手術は、欧州泌尿器科学会のビデオライブラリーにも収められており12,13、国際的に評価されている手術です。

業績

当教室の業績

  1. Kihara K, Koga F, Fujii Y, Masuda H, Tatokoro M, Yokoyama M, Matsuoka Y, Numao N, Ishioka J, Saito K.  Gasless laparoendoscopic single-port clampless sutureless partial nephrectomy for peripheral renal tumors: perioperative outcomes. Int J Urol. 2015; 22: 349-55

  2. Fujii Y, Ajima J, Oka K, Tosaka A, Takehara Y. Benign renal tumors detected among healthy adults by abdominal ultrasonography. Eur Urol. 1995;27:124-7.

  3. Yokoyama M, Fujii Y, Iimura Y, Saito K, Koga F, Masuda H, Kawakami S, Kihara K. Longitudinal change in renal function after radical nephrectomy in Japanese patients with renal cortical tumors. J Urol. 2011;185:2066-71.

  4. Takeshita H, Yokoyama M, Fujii Y, Chiba K, Ishioka J, Noro A, Kihara K. Impact of renal function on cardiovascular events in patients undergoing radical nephrectomy for renal cancer. Int J Urol. 2012;19:722-8.

  5. Fujii Y, Komai Y, Saito K, Iimura Y, Yonese J, Kawakami S, Ishikawa Y, Kumagai J, Kihara K, Fukui I. Incidence of benign pathologic lesions at partial nephrectomy for presumed RCC renal masses: Japanese dual-center experience with 176 consecutive patients. Urology. 2008;72:598-602.

  6. Kawamura N, Yokoyama M, Nakayama T, Tanaka H, Inoue M, Ito M, Kijima T, Yoshida S, Ishioka J, Matsuoka Y, Saito K, Kihara K, Fujii Y. Acute kidney injury after clampless partial nephrectomy: Incidence, predictors, and its low impact on intermediate-term renal function. The 32nd EAU annual congress, 2017, London, UK

  7. Tanaka H, Fujii Y, Ishioka J, Matsuoka Y, Saito K, Kihara K. Absence of renal artery pseudoaneurysm on computed tomography after minimally-invasive partial nephrectomy using clampless and sutureless techniques. Int J Urol. 2017; 26: 472-3

  8. Kageyama Y, Kihara K, Yokoyama M, Sakai Y, Koga F, Saito K, Yano M, Arai G, Hyochi N, Masuda H, Fujii Y, Kawakami S, Kobayashi T. Endoscopic minilaparotomy partial nephrectomy for solitary renal cell carcinoma smaller than 4 cm. Jpn J Clin Oncol. 2002;32:417-21.

  9. 木原和徳 編著 ミニマム創内視鏡下泌尿器手術 医学書院 2002

  10. 木原和徳 著 イラストレイテッド ミニマム創内視鏡下泌尿器手術 医学書院 2007

  11. Yasuda Y, Saito K, Soma T, Kijima T, Yoshida S, Yokoyama M, Ishioka J, Matsuoka Y, Kihara K, Fujii Y. The outcome of gasless laparoscopic single-port clampless sutureless partial nephrectomy using three-dimensional head-mounted display. The 113th AUA annual congress

  12. Kihara K, Tsushima T, Kawakami S, Fujii Y, Masuda H, Koga F, Saito K. Gasless single port access ultrasound-guided clampless partial nephrectomy : MIES partial nephrectomy. EAU video library 160204 (EAU 2010)

  13. Kihara K, Fujii Y, Masuda H, Saito K, Koga F, Numao N, Matsuoka Y. New 3-dimensional head-mounted display system (RoboSurgeon system) applied to gasless, single-port access, clampless partial nephrectomy. EAU video library (EAU 2013)