若年発症の高血圧や、降圧剤を沢山内服しても血圧がなかなか下がらないという患者さんでは、副腎腫瘍が原因となっていることがあります。CT, MRIによる画像検査で副腎腫瘍の大きさ、性状を評価できます。
副腎からのホルモン分泌を評価するために、採血や蓄尿検査を行います。分泌されるホルモンの種類によっては入院下で詳細な検査を行います。診断が進むと、放射性物質を使用したシンチグラフィー検査や、カテーテル検査を行い、ホルモン分泌のある腫瘍の位置を診断して外科的治療の適応があるか判断を行う場合があります。
画像診断
各種の副腎疾患では副腎腫瘍や過形成などの形態異常を伴うことがあるため各種の画像診断を行っていただく場合があります。また全身疾患との関連が疑われる場合や悪性疾患の可能性がある場合には全身の画像診断を行う必要があります。
CT検査
X線を使用して体内の断層像を撮影する検査であり、当院では最新式のdual source CTが導入されています。CT検査では大きさが数ミリ程度の副腎腫瘍を検出することが可能です。腫瘍の血流の多さや微細な血管構造を把握する必要がある場合にはヨード造影剤を腕の静脈から投与しながら撮影を行います。また全身を短時間で撮影することができるので、悪性疾患の可能性がある場合には全身検索のため撮影を行います。ヨード造影剤やX線は健康に悪影響がでないように適切に使用するよう必要があるので、検査の必要性と患者さんの状態を十分に検討しながら撮影を行います。
MRI検査
強い磁場を利用して体内の断層像を撮影する検査であり、当院では最新式の高磁場(3T)MRI機器が導入されています。MRIは病変の内部性状の診断に優れており、副腎腫瘍に含まれる微量の脂肪成分や出血の有無を検出することができます。またクッシング症候群の診断においては脳下垂体の腫瘍の有無を診断するために使用されます。(強い磁場を利用した検査であるために以前の手術などで体内に金属製の医療器具が埋め込みがされている場合には検査ができない場合がありますので、事前にお申し出ください。)
核医学検査
放射線を一定期間放出する放射性同位元素を用いた検査です。副腎シンチグラフィーの場合には副腎ホルモンに類似した物質を放射性同位元素で標識した薬剤を投与し、その体内での分布を撮影することにより、病変の機能を評価することができます。また当院ではFDG-PET撮影機器が設置されており、細胞の糖代謝を指標とした悪性疾患のスクリーニングを行うことができます。副作用の少ない検査ですが、検査前の絶食や検査実施時間の厳密な設定が必要な検査です。
副腎静脈サンプリング
原発性アルドステロン症において、手術適応を決定するためには両側にある副腎のどちらからホルモンの過剰分泌があるか確認する必要があります。そのため血管カテーテルを使用して副腎静脈から直接採血を行う副腎静脈サンプリングが必要となります。副腎静脈は非常に細いため正確な採血結果を得るためには熟練した技術が必要ですが、当院では97%以上の成功率(2019-2023年)で行っております。この検査は放射線診断科と糖尿病・内分泌・代謝内科が協力して行っており、検査前の準備や検査後の安静のため入院が必要です。
内科的治療
副腎腫瘍から過剰なホルモン分泌がある場合、ホルモンの影響を抑えるために内科的治療を行うことがあります。クッシング症候群におけるコルチゾール過剰を抑えるために、メチラポン(メトピロン®)、オシロドロスタット(イスツリサ®)が使用されます。原発性アルドステロン症に対しては、過剰なアルドステロンの影響から体を守るために、エプレレノン(セララ®)、エサキセレノン(ミネブロ®)などを使用します。副腎からのホルモン過剰は高血圧、糖尿病といった合併症を引き起こすため、降圧剤、経口血糖降下薬の調整やインスリンなどの注射製剤が必要になることがあります。
泌尿器科診療科長 ご挨拶
副腎腫瘍は、ホルモンを産生するもの、しないものに分類され、多くは良性ですが一部悪性もあります。ホルモンを産生する腫瘍も、原発性アルドステロン症、クッシング症候群(サブクリニカル症候群)、褐色細胞種など複数あります。
そして、無治療でよいものもあれば、薬剤治療あるいは手術が必要なものもあります。私たち東京科学大学病院の「副腎ユニット」は、糖尿病・内分泌・ 代謝内科、放射線診断科、泌尿器科など複数科で連携を密にして、最適な副腎腫瘍の診療(診断および治療)を目指しています。
泌尿器科は主に外科手術を担当しますが、基本的に患者さんの負担の小さい低侵襲手術(腹腔鏡手術、ミニマム創内視鏡下手術)を行ってきました。新たにロボット支援手術も開始し、患者さんの幅広いニーズに応える体制を作っています。副腎ユニットは、患者さんの不安や疑問に真摯に向き合い、最適な治療を提案して いきます。お気軽にお問い合わせください。
藤井靖久(泌尿器科診療科長,大学病院長)