前立腺がん部分治療
前立腺がんに対するFocal therapy:がん病変を標的とした局所治療
focal therapyはがん治療と機能温存の両立を目指した新しい治療法です。最新技術で治療が必要な部分を検出し、その部分を選択的に治療します。
Focal therapyとは
がんが前立腺内にとどまっている限局性前立腺がんでは、がんの悪性度などにより様々な治療法があります。悪性度が低い小さながんは急速に進行するリスクが低く(低リスクがん)、すぐに治療を行わずに注意深く経過観察を行う監視療法が提案されます。一方、中リスクがんや高リスクがんでは根治療法として手術療法や放射線療法などが広く行われています。監視療法の場合、治療による排尿機能障害や性機能障害(勃起・射精)はないものの、がんがあることや進行するかもしれないという不安が続きます。根治療法では前立腺全体へ治療を行うため、前立腺や周囲構造物の機能(排尿・排便・射精・勃起など)に影響が生じる可能性があります。特に、射精機能は男性の満足感にも大きく影響する重要なものですが、これまでの治療法では温存することが困難でした。
Focal therapyはがん治療と機能温存の両立を目指した新しい治療法です。現時点のところ前立腺がんの標準治療ではありませんが、治療が必要な部分への選択的治療法として注目されています。治療する部位以外の前立腺組織は保たれますので、勃起機能のみならず射精機能も温存し豊かなSexual Lifeを保ちつつ行う、最新の前立腺がん治療です。当科では、倫理審査委員会の承認を得て2010年からfocal therapyを行っています.これまでのべ60名以上の方に同治療を行い,良好な治療成績と高い安全性を確認しています。当科でのFocal therapyの治療計画法と治療成績は、国際学会や論文にて高く評価されています。
Focal therapyの確立に向けた当科の取り組み
前立腺がん以外の様々ながんに対して,病巣のみを治療し,臓器を温存するfocal therapyが広く行われています。乳がんでは病巣のみを切除または治療する乳房温存療法が標準治療として行われています.腎臓がんでも,腎機能を保つことを目的として,腫瘍のみを切除する腎部分切除が小さながんに対しては主流となっています。さらに当科では,膀胱癌に対し,化学放射線療法を併用し部分治療(部分切除)を行う膀胱温存療法にも取り組んでおります。
Focal therapyで良好な治療効果を得るためには精度の高い治療計画が必要です。病巣の位置と広がりを診断し、 治療の必要な部位と温存可能な部位を設定します。しかし、前立腺がんでは、しばしば病巣が多発することと,画像検査で検出できない病巣が少なくないことがfocal therapyを行うにあたり課題とされてきました.その克服のため、当科では,前立腺内のがんの状態を正確に把握することを目的に、精度の高い系統的生検法(立体多ヶ所生検法)を開発して、多くの国際的な評価を受けてきました.さらに、MRI撮像法の向上に着目し、早い時期からMRIを前立腺がん診断に積極的に導入してきました.この結果、当科で開発した生検法とMRIを組み合わせることで,病巣の位置と広がりを高精度に把握できることを明らかにしました。前立腺を左右に二分割、さらには前後左右に4分割した評価法により、治療が必要な病巣のある領域、または治療せずに温存可能な領域を診断し、より正確にfocal therapyの治療プラニングが可能です。
さらに現在では、MRIと超音波画像データを最大限活用可能としたMRI-超音波fusion画像ガイド下生検法により、高精度の治療前診断のもと、focal therapyを行っています。
Focal therapyの適応と方法
限局性前立腺がんと診断された方のうち、MRI、生検の所見で低悪性度がんまたは中悪性度がんが前立腺の片側(片葉)に留まっている方がおもな対象となります。他にも本治療法の適応となるか、いくつかの条件がありますので、ご希望される方は担当医に相談してください。なお、他の病院での前立腺生検でがんと診断され,当科でのfocal therapyをご希望される場合には,治療の適応性の評価が大切ですので、当科で再度生検を受けていただくことがあります。
Focal therapyの治療手段として,当科ではおもに密封小線源永久挿入法(小線源療法)を用いています.小線源療法は限局性前立腺がんの標準的な根治的治療法として世界中で広く行われ、当院でも多数の経験があり、その効果、安全性は確立されています。従来の小線源療法では前立腺全体に小線源を刺入しますが、focal therapyでは治療が必要な部位にのみ小線源を刺入します。小線源療法を用いたfocal therapyは治療範囲の調節が比較的容易,かつ確実に行えますのでfocal therapyに適した治療法の1つと考えています。なお、小線源療法以外の治療手段を用いたfocal therapyにつきましても今後ご案内を予定しています。
Focal therapyをご希望され、本治療の適応と判断される場合は、放射線治療医の診察をお受けいただき,治療日の設定,前立腺の治療前評価を行います.前立腺が大きい場合は(約40ml以上)、より確実に線源を刺入することが可能となるように、前立腺を縮小させるため短期間(3-6ヶ月)の内分泌療法を行うことがあります。
治療日程は通常の小線源療法と同様で3泊4日の入院です。放射線管理の必要性から放射線科病棟での入院となります。小線源の刺入は、腰椎麻酔下に泌尿器科医と放射線治療医が協力して行います。
治療後は、定期的な外来通院でPSAの測定、およびMRIで治療効果を判定していきます。また、治療による日常生活への影響は、QOL(生活の質)調査票への定期的な記入で調査します。約2年後に生検による評価判定を行います。
放射線照射後の前立腺内再発に対するサルベージfocal therapy
以上に述べたのは、限局性前立腺がんに対する初回治療としてのfocal therapyについてですが、放射線照射後の前立腺内再発がんに対してもfocal therapyを施行しています。
放射線療法は限局性前立腺がんに対する優れた治療法の一つですが、前立腺内再発を来たす場合があります。その場合の治療法として、前立腺全摘除、また前立腺全体への再度の放射線照射はともに合併症の頻度が高くなると報告されています。内分泌療法が行われる場合もありますが、長期間の内分泌療法は、骨粗鬆症、骨折、糖尿病、心血管病、うつ症状などの危険因子となることが指摘されています。
放射線照射後の再発と判断され、MRIおよび生検で前立腺内に再発病巣が特定される場合は前立腺内再発がんに対するfocal therapyを行える場合があります。再発がんの広がりなどの適応条件もありますので、ご希望される方は担当医に相談してください。治療は初回治療としてのfocal therapyと同様のスケジュールで行っていきます。