腎手術後の腎機能
- 腎がんの手術を受けると腎機能はどうなりますか?
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腎がんの手術には大きく分けて2種類あります。がんのある腎臓全体を摘出する根治的腎摘除と、腫瘍の部分だけを摘出する腎部分切除です。
根治的腎摘除後の腎機能
根治的腎摘除では、片方の腎臓を摘出することで腎機能は大きく低下し、ほとんどの方は術後の腎機能の指標である血液中のクレアチニンの濃度(これが高いほど腎機能は悪いことを意味します)は正常値を超えることになります。しかし、一般的には腎機能(クレアチニンの値を基に計算される推定糸球体濾過量)が術前の半分まで低下することは少なく、その低下の割合は35%程度です。また、術直後に低下した腎機能は時間とともにわずかではありますが、回復することが多いのです。1,2 これは腎移植のために腎を提供するドナーの方と同じような状況で、腎がんで片方の腎を摘出したとしてもほとんどの方は血液透析の導入などの大きな問題を抱えることなく生活することができます。
ただし、一般的に慢性腎臓病のリスクと言われている高血圧や糖尿病を有している方、あるいは高齢の方などでは、根治的腎摘除後に腎機能が低下しやすく、3 1-2%程度の方に血液透析などの腎代替療法が必要になります。
腎部分切除後の腎機能
小さい腎がんに対しては、現在では腎部分切除が標準的な治療になっております。腎部分切除後の腎機能の低下は5-10%程度であることが多く、4,5 一般的には根治的腎摘除より良好に腎機能は温存されます。多くの場合、腎部分切除を行う際には腎動脈を遮断して(阻血と言います)、出血しないようにした状態で腫瘍を切除し、腎実質を縫合してから腎動脈を開放し、手術を終了します。阻血時間が長くなると腎臓に血液が行き渡らなくなり、腎機能は低下します。また、腎動脈を圧迫することで血管が傷むことによって、腎機能が大きく低下することも稀にあります。当科では阻血に伴う腎機能の低下を回避するため、無阻血での腎部分切除を開発・洗練し、多くの患者さんに行っております(詳しくはこちらへ)。
最適な腎がん治療に向けて
腎部分切除後にも比較的大きく腎機能が低下することもあります。そのリスクの一つに腫瘍のサイズがあります。大きな腫瘍では、より大きい範囲の正常腎組織も摘除することになり、その分だけ腎機能が低下します。大きな腫瘍では出血や術後合併症、あるいは再発のリスクも高くなります。また、腎部分切除を受けた方の中には一部に高血圧を発症する、あるいはもともと合併していた高血圧が悪化する方もいます。6,7
我々は、根治的腎摘除、および腎部分切除後の腎機能3,8や再発リスク、あるいは高血圧7や心血管疾患発症9 ・悪化のリスクをできるだけ正確に予測し、一人一人の患者さんに対し、最適な治療法を選択すること10を第一に考えています。術後には腎機能にも十分に注意を払い、必要に応じて腎臓内科とも緊密に連携を図りながら、患者さんが長く健康に過ごせるようサポートしてまいります。
当教室の業績
Longitudinal change in renal function after radical nephrectomy in Japanese patients with renal cortical tumors. Yokoyama M, Fujii Y, Iimura Y, Saito K, Koga F, Masuda H, Kawakami S, Kihara K. J Urol. 2011 Jun;185(6):2066-71.
Recovery of renal function after radical nephrectomy and risk factors for postoperative severe renal impairment: A Japanese multicenter longitudinal study. Kawamura N, Yokoyama M, Fujii Y, Ishioka J, Numao N, Matsuoka Y, Saito K, Arisawa C, Okuno T, Noro A, Morimoto S, Kihara K. Int J Urol. 2016 Mar;23(3):219-23.
Renal function after radical nephrectomy: development and validation of predictive models in Japanese patients. Yokoyama M, Fujii Y, Takeshita H, Kawamura N, Nakayama T, Iimura Y, Sakura M, Ishioka J, Saito K, Koga F, Masuda H, Noro A, Arisawa C, Kitahara S, Kihara K. Int J Urol. 2014 Mar;21(3):238-42.
Gasless laparoendoscopic single-port clampless sutureless partial nephrectomy for peripheral renal tumors: perioperative outcomes. Kihara K, Koga F, Fujii Y, Masuda H, Tatokoro M, Yokoyama M, Matsuoka Y, Numao N, Ishioka J, Saito K. Int J Urol. 2015 Apr;22(4):349-55.
Acute kidney injury and intermediate-term renal function after clampless partial nephrectomy. Kawamura N (equal contribution), Yokoyama M (equal contribution), Tanaka H, Nakayama T, Yasuda Y, Kijima T, Yoshida S, Ishioka J, Matsuoka Y, Saito K, Kihara K, Fujii Y. Int J Urol. 2019 Jan;26(1):113-118.
Progression of hypertension after partial nephrectomy in patients with renal tumors: A preliminary report. Inoue M, Fujii Y, Yokoyama M, Saito K, Numao N, Kihara K. Int J Urol. 2015 Aug;22(8):797-8.
Incidence and Risk Factors of Hypertension Following Partial Nephrectomy in Patients With Renal Tumors: A Cross-sectional Study of Postoperative Home Blood Pressure and Antihypertensive Medications. Fukushima H, Inoue M, Kijima T, Yoshida S, Yokoyama M, Ishioka J, Matsuoka Y, Saito K, Fujii Y. Clin Genitourin Cancer. In press.
Can We Predict Functional Outcomes after Partial Nephrectomy? Tanaka H (equal contribution), Wang Y (equal contribution), Suk-Ouichai C (equal contribution), Palacios DA, Caraballo ER, Ye Y, Remer EM, Li J, Abouassaly R, Campbell SC. J Urol. 2019 Apr;201(4):693-701.
Impact of renal function on cardiovascular events in patients undergoing radical nephrectomy for renal cancer. Takeshita H, Yokoyama M, Fujii Y, Chiba K, Ishioka J, Noro A, Kihara K. Int J Urol. 2012 Aug;19(8):722-8.
Renal Cancer Surgery in Patients without Preexisting Chronic Kidney Disease: Is There a Survival Benefit for Partial Nephrectomy? Suk-Ouichai C (equal contribution), Tanaka H (equal contribution), Wang Y, Wu J, Ye Y, Demirjian S, Li J, Campbell SC. J Urol. 2019 Jun;201(6):1088-1096.