マーカーとしてのCRPの臨床応用
当科では、C反応性蛋白(CRP)が各種泌尿器がんのバイオマーカーであることを報告し、
泌尿器がんの予後予測、再発の診断、治療効果判定に用いて診療を行っています。
泌尿器がんのバイオマーカーとしてのCRP
がんの患者さんには、病気の拡がり(病期)に応じて治療を行っていきますが、治療後の再発・転移を起こすリスクに基づいて追加治療を行うなど、全体の治療方針を検討することが大切です。また、現在のがんの診療では、再発の有無や治療効果の評価は、CT等の画像診断によって行うことが多いですが、より簡便に病気の状態の評価ができるバイオ(腫瘍)マーカーがあれば、日常の診療に有用です。泌尿器がんでは、前立腺がんにおける、前立腺特異抗原(PSA)や、精巣がんにおける、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)やαフェトプロテイン(AFP)などの有用な腫瘍マーカーがあり、日常診療に用いられ、診断・治療に役立っています。
これまで、多くのがん腫で、特に進行状態にあると、発熱(腫瘍熱)や体重減少などの全身性の炎症反応が出現することがあり、また炎症反応が認められる方のその後の経過が不良であることが示されてきました。当科では、代表的な炎症反応物質であるC反応性蛋白(CRP)に注目し、CRPが各種泌尿器がんの治療後の経過を予測することに役立つバイオ(腫瘍)マーカーであることを示しています。CRPは、微量の血液で簡便に測定できる物質で、以前から通常の診療で用いられてますが、泌尿器がん(腎がん、腎盂尿管がん、膀胱がん、前立腺がん)のバイオ(腫瘍)マーカーとして利用できることを広く国際的に報告し、1-3診療に役立てています。
腎がんの診療におけるCRPの有用性
腎がんは、進行していても症状に乏しいことも多く、初診時に約30%ですでに転移を認めて、根治手術を行なった場合でも術後、約30%に再発をきたすとされています。
腎がんには、現在、前立腺がんにおけるPSAのような特異的なマーカーがなく、新たなマーカーが探索されておりますが、以下の点において、CRPが腎がんの診療に有用であることを示してきました。
治療時のCRP値によって腎がんのより精度の高い経過観察が可能となりました。
手術前のCRPの値が低い患者さんでは、高い患者さんに比べて腎摘除後の、再発転移のリスクが低く、生命予後が良好であることを報告しました。4-6さらに、国際的な悪性腫瘍の病期分類であるTNM分類にCRPの値を加味した「TNM-Cスコア」を開発し、簡便かつ正確なリスク分類法として活用しています。7,8
現在、術後の転移・再発の診断は、CTなどの画像診断によって行なっていますが、頻繁に行うことも難しく、転移の早期診断が困難なことも少なくありません。実際に手術後の再発の診断にCRPが有用であった例も経験し、報告しています。9今後は、経過観察での画像検査の機会を減らすことができないか、検討を進めていきます。
CRPは進行腎がんの治療における病勢マーカーとして有用です。
現在、転移のある腎がんの患者さんに対して行う、免疫療法、分子標的療法などの全身療法の効果判定は画像診断で行います。また、腎がんには、急速に進行する癌がある一方で、進行が緩徐ながんも存在します。現在のところ、両者を鑑別するのは容易ではありません。
当科では、治療開始時のCRPの値が上昇している方では、比較的病気の勢いが強く、進行が速いことを明らかにしました。さらに、そのようながんに対しても、手術や全身療法などによって、CRPの値が低下した場合は良好な経過が期待できることを報告しました。5,10,11実際の腎がんの診療において、CRPの値を目安にし、適切な治療方針を提示できるようにしています。
膀胱がん・腎盂尿管がんの診療におけるCRPの有用性
膀胱がん、腎盂尿管がんは、共に尿路上皮より発生する上皮がんであり、尿路上皮がんと総称され、発生した臓器によりそれぞれ膀胱がん、腎盂尿管がんと呼ばれます。腎がんと同様に、これら尿路上皮がんにおいても、CRPがバイオ(腫瘍)マーカーとして有用であることを示しています。CRPは、転移のない膀胱がん、腎盂尿管がんの治療後の再発・進行のリスク評価に有用であることを示しました。12,13
また、再発・転移のある進行がんのその後の経過のリスク評価に有用であることを報告しました。14治療開始時のCRPの値が上昇している方では、比較的病気の勢いが強く、進行が速いことが示されています。さらに、腎がんと同様にそのようながんに対しても、全身療法である化学療法を行うことで、CRPの値が低下した場合は良好な経過が期待できることを示しています。15実際の膀胱がん・腎盂尿管がんの診療において、CRPの値を測定し、適切な治療方針を提示できるか検討しています。
前立腺がんの診療におけるCRPの有用性
前立腺がんには、前立腺特異抗原(PSA)という優れた腫瘍マーカーがあり、前立腺がんのスクリーニング、診断、治療効果判定、再発判定に利用されています。しかしながら、内分泌治療に抵抗性となっている一部の進行前立腺がんでは、PSAが病勢を反映していない場合もあります。当科では、抗がん剤治療を行う内分泌治療抵抗性進行前立腺がんの方で、治療開始時のCRPの値がその後の予後予測に有用であることを報告しました。16すなわち、一部の進行前立腺がんでCRPが有用であり、この値も参考として治療方針を検討しています。
世界的にも、当科からの報告は注目され、CRPが将来、新しい治療法開発における有用なマーカーとなりうることが期待されています。これから、多くのがんで新たな免疫治療薬が利用可能となり、新たながんの治療法が展開されることになりますが、その中でも、CRPが有用なバイオ(腫瘍)マーカーとなるか、検討を続けていきます。
業績
当教室の業績
国際誌総説
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Saito K and Kihara K. C-reactive protein as a biomarker for urological cancers. Nat Rev Urol. 2011 Oct 25;8(12):659-66.
Saito K and Kihara K. Role of C-reactive protein as a biomarker for renal cell carcinoma. Expert Rev Anticancer Ther. 2010 Dec;10(12):1979-89.
国際誌発表
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Iimura Y, Saito K, Fujii Y, Kumagai J, Kawakami S, Komai Y, Yonese J, Fukui I, Kihara K. Development and external validation of a new outcome prediction model for patients with clear cell renal cell carcinoma treated with nephrectomy based on preoperative serum C-reactive protein and TNM classification: the TNM-C score. J Urol. 2009 1004-12.
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