男性特有の臓器である前立腺は、膀胱のすぐ下で尿道を取り囲んでいます。加齢とともに前立腺が大きくなると、中を通っている尿道を圧迫し、尿の通りが悪くなります。前立腺肥大症の治療は内服薬から開始しますが、それでも効果が不十分な場合や、薬の長期服用を避けたい場合は手術治療を行います。
当院では、複数の低侵襲治療を導入しており、長期入院を回避したい方、心臓や脳の病気のために抗血栓薬(血液をサラサラにするお薬)を中止できない方、前立腺肥大が高度で手術が困難とされた方など、従来の手術では介入が難しかった方にも治療の提供が可能となっています。
経尿道的前立腺吊り上げ術:ウロリフト(UroLift)
前立腺内に小型のインプラントを埋め込み、肥大した前立腺を吊り上げて尿道を広げ、排尿しやすくする治療法です。従来の前立腺肥大症の手術と異なり、前立腺組織の切開、焼灼、切除を行わないため、体への負担が少ないのが特徴です。手術時間は約15分と短時間で済むため、侵襲が少なく、高齢の方でも安全に実施できる手術方法です。内服治療より迅速な症状改善が期待でき、また、すでにお薬を内服中の方に関しては、服薬継続が不要となる可能性があります。他の手術法で生じうる逆行性射精は起こりにくいとされています。
日本では2022年4月に保険承認され、当科では承認直後から導入しております。欧米では2013年に承認されており、これまで30万人以上が本治療を受け、長期効果が実証されています。
治療の流れ
手術前日に入院します。手術は全身麻酔あるいは腰椎麻酔で行い、手術時間は約15分です。一般には手術翌日に尿道カテーテルを抜去し、排尿が確認できれば術後2日目に退院となります。術後の血尿の程度により入院期間が延長する場合があります。
ツリウムレーザー前立腺蒸散術:ThuVAP(Thulium laser vaporization of the prostate)
これまでの前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺手術(TURP)では、尿道から内視鏡を挿入し、前立腺組織を電気メスで少しずつ切除していました。ThuVAPは、電気メスに代わって、レーザーを用いて前立腺組織を蒸散させることで尿道を広げて症状の改善を図る治療法です。
これまでのレーザー治療との違い
日本においては、これまでにホルミウムレーザー、グリーンライトレーザー、半導体レーザーによる前立腺手術が保険認可されていました。当院で導入した最新治療となるツリウムレーザーの特徴は、水分子に対する吸収率が高く、組織への深達度が0.1〜0.2 mmと限定的な点にあります。強い熱エネルギーで前立腺組織を瞬時に蒸散させる際に、必要十分な薄い凝固層を形成させることで確実な止血効果を得るとともに、周辺組織に対する影響を最小限に留めることが可能です。術中および術後の出血リスクが低いため、抗血栓薬(血液をサラサラにするお薬)を内服中の方でも、休薬せずに安全に治療を実施することができます。また、術後の痛みが少なく、回復も早いため、術後の尿道カテーテル留置期間も短くて済み、早期退院が可能となります。
治療の流れ
手術前日に入院します。手術は全身麻酔あるいは腰椎麻酔で行います。一般には術後1〜2日目に尿道カテーテルを抜去し、排尿が確認できれば退院となります。
経尿道的前立腺核出術: TUEB (Transurethral enucleation with bipolar)
従来の前立腺を電気メスで切除する手術(TURP)では出血の問題、残存した肥大症組織の再腫大の問題がありました。前立腺は外腺、内腺の2層構造となっており、ミカンに例えると皮と実のうち、内側の実を除去することが手術の目的になります。従来の手術法では、実を削り取る際に、果汁が漏れ出る(=出血を伴う)ことになっていたのに対し、TUEBでは内腺と外腺の間を剥離し、内側をまるごとくり抜くため、出血のリスクが低くなります。また、残存組織がないため、良好な排尿状態が長期に維持されることが期待できます。
治療の流れ
手術前日に入院します。手術は全身麻酔あるいは腰椎麻酔で行います。一般には術後2日目に尿道カテーテルを抜去し、排尿が確認できれば退院となります。